『CAT'S EYE』2004.11.28

 
「仕事の内容は八戒が理解していれば、それで充分だろう。 貴様は馬鹿力と丈夫なの“だけ”が取り柄だからな。 荒事は任せた。」
 ・・・って、三蔵の野郎、絶対ヒトにモノ頼む時の言い種じゃねぇよな。
 しかも、こいつ、全然解ってねぇ。
 八戒は、強えぞぉ!
 俺、絶対八戒と、マジな喧嘩とかしたくねぇもん。 いや、シャレでも冗談でもなく、大マジでホントに。
 ンで、コレは腹の底からそう思った時のオハナシ。



               ―― CAT'S EYE ――



 ちょろい仕事。
 最初はそう思った。

 雪が融けてからこっち、三蔵が俺らに面倒くせー事、押し付けてきやがる様になった。
 三仏神から受けた指令を、俺らに回して、てめぇが楽しようって考えだろうサ、どうせ。
 (イヤ、確かにヤツは忙しすぎるけど)
 そん時は、何年だか前に、天界から盗まれたっつー、ナントカって玉があるから、取り返して来いってハナシだった。(八戒に詳しい事聞いたんだけど、忘れちゃったのよね〜。 ま、どうでもイイでしょ? そこら辺は。)
 モノの所在が判ってんだモン。 行って、『返してネ』つって、持ってくりゃイイんだから、楽勝でしょう。
 交渉事は八戒にオマカセ。 だってあいつ、そう云うの得意だから。 ありゃ、天性かね? ウマーイ具合に相手の痛いトコついて、こっちに有利に話を持ってく。
 イヤ、俺もそれでしょっちゅうヤラレてっから、ホント、実感してんの。


 と、いう訳で。
 悟浄と二人で、出かけました。 朝早く出て、ジープで四〜五時間掛かったでしょうか?
 結構、遠かったんですが、意外に道中、楽しかったんですよね。 小春日和の気持ち良い日でしたし、途中で花見したりして。 お弁当も持って行ってたので、ちょっと遠足気分でした。
 さて、昼過ぎに辿り着いた地で、実際にお会いした目的の方は、馬鹿げて大きい上にとんでもなく趣味の悪い邸宅に住んでいる、顔も性格も悪いと言う、三重苦のおじさんでした。
 この方が往生際が悪くて、僕らを一室に閉じ込めて、開瞑珠を護ろうとしたんです。
 あ、そうそう、悟浄がちょっと説明不足だったんですけど、要するに少しだけ未来を透視できるという“開瞑珠”という宝珠を、僕らは取り返しに行ったんですよ。
 話を戻します。
 兎に角、僕らを閉じ込めて、ばっくれちゃう心算だったんでしょうけど、悟浄が馬鹿力でドアを壊しちゃったモノですから。 そのつもりは無かったんですが、結果的に少しばかり騒ぎが起きまして。
 脱出してしまった僕達を発見した三重苦のおじさんは、趣味と顔と性格に、更にガラの悪さも加えた、四重苦の気の毒な方々を僕らに差し向けた訳です。 ・・・・勿論、悟浄があっという間に叩きのめしてしまいましたけど。


「ほい、一丁アガリィ!」
 ま、ザコ野郎どもには、用、無いってコトで。
「ダメですよ、悟浄。 殺してしまっちゃ。」
 と、八戒。 ニッコリ笑って言うセリフか?
「殺っちゃいねぇよ! コイツら、オネンネしてるだけだから。」
「くっ・・・・! 貴様ら、嘗めやがって!!」
 腹の出具合と云い、口元の卑しさと云い、下品なギョロ目と云い、どー見てもタヌキにしか見えねぇオヤジが怒り始めて、芸の無いセリフを吐きやがる。
 八戒が辛抱強く語りかけた。
「さっきも言いましたけど、例え僕らを殺しても、天界ではもう、ここを知ってるんですから。 無駄な事は止めて、さっさと開瞑珠を渡して頂けませんか?」
「う・・・五月蝿い! 騙されんぞ!! 上手い事言って珠を奪って、金儲けする心算だろう!」
 たぬきオヤジが真っ赤になった。 う〜ん、やっぱ命名変更。 タコオヤジだ。
「ですから、そうではありませんって。 お疑いなら、斜陽殿まで同行なさいますか?」
 八戒、苦笑気味になってる。 だぁいぶイラついて来てンな。
「宝珠はご自分でお持ちになって下さって結構ですよ。 僕達は、貴方が溜め込んだ財にも興味ありませんし、結果として宝珠を渡して頂けるなら、事を他所に漏らす心算はありませんから。 でも拒否すると、次は天界から直接、使者が来る事になりますよ? 貴方も、ここらでは名士で通っているんでしょう? 外聞の悪い事は、避けた方が宜しいんじゃないですか?」
「ふん! もっと良い方法があるぞ! お前等を殺して、お前等があの珠を持ち逃げした事にすりゃあ良いんだ!!」
 ナンカ、俺も流石にイヤんなって来て、
「だぁ〜から、さっきみてぇな雑魚、何人出して来たって俺ら殺せやしねぇってんだよ! イイ加減、分かれよ!!」
 ちょっと、ドス効かせて言ってやったんだけど。
「ふん、それはどうかな?」
 時代劇の悪役か?ってくらい、芝居がかった言い回し。 それと同時に、オヤジの気が急激に膨らみ始めた。
 イヤ、気だけじゃねぇ! 図体までデカくなりやがる! 
 こいつ、制御装置使ってたな? 本性、現しやがった。 でも、タコじゃねえ。
「なあ、こいつ、タヌキかタコだと思ってたんだけど。」
「キツネさんみたいですねえ。 意外でした。 毛皮が高そうですし。」
 3メーター以上はあるかって位、でっけー狐のバケモノ。
 咆哮と共に、ふっさふさの尻尾を振り回して来た。 
「・・・・っぶねぇ!」
 俺も八戒も、思わず飛びのける。
 ・・・と、俺らの距離が離れた。 くそ、これが狙いか? ・・・マズイな。
「なあ、八戒! サルの本性って、知ってる?」
「さあ? やっぱり、おサルさんなんじゃないですか?」
 せめて声出してお互いの所在を確かめようと思った。 八戒も解ってる。 ちゃんと返して来た。 バケモノ挟んで、ちょうど反対側ぐらいに居るみてえ。 うまくやりゃ、挟み撃ちも出来る位置関係だけど、図体デカイ癖にこいつ結構、動きが機敏!! 作戦立てて共同攻撃なんざ、出来る訳ゃねえ! しかもパワーあるし!
「悟浄は河童ですよね!」
 やべー! 避けるばっかりで、反撃出来てねぇ!
「んだ?そりゃ! そういうてめぇはナンなんだよ!!」
「僕はヒトですよ! 元々ヒトだったんだから、きっと!」
 横殴りのパンチが俺を襲う。 何とか止めたけど、全身使って、やっと、ってカンジ。 すげぇパワー!
 ほぼ同時に、八戒には尻尾攻撃。 避けたみてぇだけど、・・・・・コイツ!
「器用なコトしやがって!! イイ気になんなよ!」
 錫杖を具現化して、攻撃を仕掛ける。
 鎖に繋がれた三日月形の鋭い鎌が弧を描いて化け狐を襲った。 次の瞬間、首と胴は離れて・・・・居る筈だったが。
 ―――冗談! 飛びのけやがった! しかも、八戒に向けて突進してる!!
「八戒! 逃げろ!!」
 咄嗟に八戒と化けキツネの間に飛び出す。

 ―――ガス!!

 やべぇ、マトモに喰らっちまった。 横殴りの張り手みたいなのに吹っ飛ばされて、壁に叩きつけられた格好。 ちょっと、ダメージ。
 ・・・・・って、足の裏が見えた。 ジョーダン!踏み潰す気かよ!?
 咄嗟に体勢を立て直す。 片膝立てた格好で錫杖を投げ捨て、両手で肉球の浮き出た巨大な足を抑える。
 ・・・・・取り敢えず、全身で支えてるけど、野郎、体重かけてきやがる!
 ちくしょう、すんげー重い!!
 立ち上がるだけの余裕が無かったから、腰を入れらんねぇ! 上半身と腕の力だけじゃ・・・・もたねーかも・・・・・・!!!
「悟浄!!」
 八戒の叫びが聞こえると同時に、急激な気の膨らみを感じた。
 さっきのキツネの比じゃねぇ!! アレと較べたら三〜五倍(当社比)位はありそーって位、巨大な気の圧力が、この趣味の悪い部屋の中に新たに生まれてる。
 ナニが起こってンだ!?
 ・・・その時、いちだんとデカイ咆哮と共に、俺を踏み潰そうとしていたプレッシャーが消えた。
 化けキツネが俺の目の前にスローモーションでぶっ倒れる。
 なんで? ワケわかんねぇ!
 俺がびっくりしてる間に、キツネは素早く体勢を戻し、俺とは反対側に向けて戦闘態勢に入った。
 その向こうに目をやると、そこに居たのは・・・・・!

 ―――異形の者。 だけど、美しい。
 はだけてしまったシャツの隙間から見える白い肌に、鋭い爪を持つその手に、唐草模様が浮き出している。
 尖った耳と漆黒の髪を持つ、翠の眼の鬼。
 いつもよりキツイ光を放つその瞳は、瞳孔が縦に伸びていた。

 キツネのバケモノと八戒(たぶん)は、暫く身じろぎもせずに見詰め合ってた。
 焦れたのか、キツネが咆哮を上げて相手につかみ掛かろうとした、その時。
 八戒(としか思えネーヤツ)は、高く上げた腕を、体重かけて振り下ろした。 爪の先から、剣みたいな鋭い光が伸びてるように、一瞬、見えた。
 1メートル程の距離がまだ、アイツラの間にはあったんだけど、次の瞬間、キツネの化けモンは、轟音たてて、前のめりにぶっ倒れた。 キツネの野郎、俺には背ぇ向けた形だったから、良く分かンねぇトコも有るけど、切り裂かれたってカンジだったぜ? すんげえ、血ィ出てたもん。

 化けモンが倒れた衝撃で、壁やら天井やらがちょっと崩れてきたり、悪趣味に部屋を取り巻いてた石像みたいのが倒れてきたりで、少しばかり慌てたけど、おおむね、俺様、腰抜かしてたと言ってイイ。(←威張ってる場合か?)
 キツネにやられたダメージも勿論あるけど、それどこじゃねぇ衝撃。
 
 そりゃ、制御装置も三つ要るわ・・・・
 そう、納得せざるを得ない、物凄い気の圧力。
 コイツに本気出させたら、この俺様でもちょっと敵わねぇかも。
 ―――っつーか、怖え〜〜〜っっっ!(←ココロの声)

「悟浄! 悟浄!!」
 必死に、俺を呼ぶ八戒の声が聞こえた。 
「悟浄! 何処です!?」
 声は、変わンねぇのな、と、ちょっと納得。
「おーい、八戒。」
 粉煙の中から、翠の眼の鬼が現れた。 ちょっと泣きそうな顔。
 駆け寄って来て、俺に抱きつく。
「悟浄!! 大丈夫ですか!? 悟浄が殺されちゃうんじゃないかと僕、もう夢中で・・・・・・!」
 う〜ん。 近くで見ると、猫眼の八戒も、キレイ。(←ある意味、大物)
「・・・・てか、お前・・・・・・・」
「あっ」
 慌てたように身を離し、さっき立ってた辺りに走ってくと、ああどうしようアレが無いと帰れません〜〜〜とか、動揺しまくってカフスを探す八戒。
 ナントカ立ち上がって、一緒に探してやったりして。
 んで、物陰で震えてた雑魚どもから聞き出して、タマを持って帰った、と。
 みんな、素直になってたぜぇ?
 そりゃ、あの八戒見たら、逆らおうなんて、ぜってー思わねぇって。
 ―――帰りの道中、しみじみ思ったね。
 コイツに喧嘩売るのだけは、止めとこうってさ。



 ―――いつの間にか眠っていたようです。
 気付くと、すっかり日は暮れていましたし。
 ・・・・・まだ覚めきらない頭をフル回転させても、悟浄に肩を貸してもらって、ジープに乗り込んだ所までしか覚えてない・・・。 ずっと同じ体勢で寝ていたらしく、首の片方に筋の突っ張るような痛みがあり、それを無理に動かそうとして思わず息を吐いたので、
「お、起きた?」
 気付かれてしまった。 悟浄がこっちにチラッと目をやりながら声を掛けてきました。
 ・・・・見覚えのある風景が流れているという事は、もう自宅近くまで来ているらしく思われ、往路を考えると、悟浄は四時間ほど運転していた事になり。
 余り慣れて居ないのに・・・・。 しかも彼だって、打撃によるダメージは有った筈。
 自己嫌悪。 目覚めてもなお怠い感じが残って居るとは云え、正体無く眠りこけてしまうなんて。 
「・・・・スミマセン。」
「って、ナニが? 俺、珍しぃモン、見せてもらっちゃったから、結構トクした気分よ?」
「嫌な言い方しますね・・・。 何が言いたいんですか?」
「・・・・八戒の寝ヨダレ。」
「・・・・・・・!」
 悟浄がクックッと笑いながら、
「ウソウソ! ・・・ってか、どーする? しんどいなら一回家で休んでってもイイし。」
 体調も、ばれてるらしいですし、立場、ありません。 もう、我儘ついでです。
「・・・・三蔵、まだ起きてますかね?」
「ソレは大丈夫じゃねぇの? 前にお前が残業してきた時間より遅かねぇと思うぜ。」
「なら、先に渡しちゃいましょう。 なんとなく、持っているのイヤです。」
「了解。 ・・・でもさぁ、凄くね? 結構オオゴトだったのに、日帰りだぜ?」
 大事・・・確かに。

 ・・・・・・怖かった、本当に。
 悟浄が死んでしまうかと思った。
 悟浄を失うかと思うと、頭に血が昇って。
 体中の血液が逆流して、鼻からも口からも毛穴からも噴出してしまいそうな、内側から膨れ上がる圧迫感を感じて・・・。 制御装置を外した覚えは無いから、勝手に外れたのかも。
 気が付いたら、体当たりしていて、大狐が倒れた処までは、なんとか分かるんですが。
 その後、何をしたのかはっきりとは覚えていなかったりしたし、目の前で事切れた大狐を見て、僕は悟浄も殺しちゃったんじゃ無いかと戦慄して・・・・・。
「―――良かった。」
「ナニが?」
「・・・・・悟浄が丈夫に出来てて。」 
「・・・・お前ね・・・・・。 言い方って大事だと思わねぇ?」
 本当に良かった。 好きになったのが簡単に死ぬ様な人じゃなくて。
 二度も、愛する人を失うなんて。
 ・・・・・今度こそ、僕は耐えられないんじゃないかと、・・・そう云う自覚が・・・・・ある。
 自分がどうなってしまうのか、予測がつかないだけに。
「ハイハイ、どーせ俺は丈夫なのダケが取り柄ですよ!」
 僕が何も答えないからでしょう。 悟浄は自分で勝手に結論を出して、皮肉っぽい口調で言い、
「・・・けどさ、八戒。」
 笑いを含んだ声で言葉を続けました。 こういう時は、何かたくらんでます。
「・・・なんです?」
「結構、色っぽかったかも。」
「――――はいぃ!?」
「猫眼の八戒。」
 一瞬、自失。 頭、真っ白とはこの事。
「・・・・・・・・・・・・猫眼、に、なってたんですか・・・・・・・?」
「なってた。」
 悟浄、もう、はっきりと声が笑ってます。
 でも・・・・そう言われれば、制御装置を外して鏡を見たことなんて無いし、どんな姿になってるのかなんて、考えた事も無かったですし。 ・・・・・・溜め息が出ました。
「どうした?」
「日々、自分について発見があるって、・・・・幸せな事じゃ無い様な気がするんですけど。」
「イイんじゃね? なあんも知らねえより、知ってるほうが。」
「・・・ですかね・・・」
 目的地が目前に迫っていた。


 二人が開瞑珠を持って執務室に入ると、丁度仕事を終えようとしていた三蔵が言った。
「何だ、早かったな。」
「いきなりソレかよ! フツー、ご苦労とか言うもんじゃねぇの?」
 表情を変えずに、三蔵は抑揚なく答えた。
「ご苦労とか。」
「ケンカ売ってんのか、てめぇ!」
 ドツキ漫才が始まりそうになったので、今日は付き合う体力が無いと自覚している八戒が口を出す。
「・・・・これでも結構、大変だったんですけどね。」
「そうそう、八戒の本性見ちゃったの!」
「悟浄!」
「ナンだよ、イイだろ! コイツだって知らねぇワケじゃねぇんだから。」
 三蔵が器用に片眉を上げて、八戒を見る。
「自分で制御装置を外したのか」
 悟浄に口止めを忘れた己の迂闊さを呪いながら、ばれたなら仕方ないと眼を伏せて、八戒は質問に答えた。
「・・・・覚えは無いんですけど、気が付いたら外れてました。 でも、夢中でしたし、自分でやったのかもしれません。」
「夢中・・・・・・。」
 紫の瞳は思いついたように悟浄を一瞥し、また八戒に視線を戻す。
「自分で見つけて、身に着けたのか?」
「はい・・・・。 探すのは、悟浄にも手伝って貰いましたけど。」
「なら、良い方だ。 意識はあったんだろう?」
「はい、一応は。」
「イイほうって?」
 言葉尻を捉えて、悟浄が疑問を呈した。
「悟空と較べるとな。 あいつは意識も記憶も飛ぶんだ。 とんでもねぇぞ。」
「とんでもねーって?」
「死ぬかと思う。」
「ダレが。」
「俺が。」
「まぁーた! 殺しても死なないっしょ、三蔵サマは?」
「ソレはてめえの方だろうが!」
 自分がどう口を挟もうが、この二人で会話させておくと、方向性は漫才になってしまう、と、脱力感を覚えた八戒は、小さく溜め息を付いた。
「あ、ゴメン、疲れてんだよな、八戒。」
 脱力感漂う笑顔で、八戒が応える。
「いえ、大丈夫ですよ。 ちょっと呆れただけですから。」
「・・・お前ね。」
「おい八戒、コーヒーを淹れて来てくれ。」
 遮るように、三蔵が言った。
「あ、はい。」
 八戒は度重なるバイトで条件反射が身に付いている様だった。 執務室を後に、勝手知ったる給湯室に向かう。
 黒髪の若者が部屋を出たのを確認して、最高僧は、疲れている恋人に用事を言いつけた男を睨み付ける赤毛の若者に、視点を定めた。 その視線は容赦ないものを湛えていた。
「おい、河童。」
「・・・止めてくんない? その呼び方。」
 空気を察して、硬い声で悟浄は答える。
「やられそうになってんじゃねえぞ!」
「やっぱ、バレバレ?」
 三蔵に図星を突かれ、溜め息交じりに悟浄が返した。
「他に考えられんからな。 てめえら、出来てんだろ? その状態でてめえに何かあったら・・・」
「ナニ?」
 唯でさえ低い声を更に顰めて、三蔵は続ける。
「世間に迷惑が掛かる懼れがある。 いいか、絶対に死ぬなよ。 死にそうにもなるな。」
「・・・ラスト二言だけ聞いたら、ナミダ出そうなんだけど。」
「誤解するな。」
「してねぇし。」
 赤い瞳が、不遜な光を帯びる。
「・・・つーか、そう云うことならアンタだって、おんなじでしょ?」
「馬鹿が。 貴様が筆頭だろうが。」
「・・・ソレはそうかも。」
 悪びれぬセリフに反論の勢いを削がれ、投げやり気味に三蔵は続けた。
「てめえも無事で済んでる訳じゃ無いんだろう。 俺の差し向けた仕事で何かあったんじゃ、寝覚めが悪いからな。 今後一切、怪我をする事も許さねえから、その心算でいろ。」
「・・・っとに、モノの言い方、知らねぇのな、アンタ。」
 赤い瞳に笑みが滲み出た。
 その眼の色に不快感を覚え、敵意を露わに三蔵が返す。
「何が言いたい。」
「かぁわいい〜って、言いたいの。」
「・・・・・・どうしても、一遍死にたい様だな、貴様。」

 コーヒーを持って来た八戒は、銃声付でドツキ漫才が始まっているのを知って、苦笑と共にカップを配る。
(全く、お互い結構気に入ってるくせに、何でこうなるんでしょうねえ?)
 一人窓際に座って、自ら淹れたコーヒーの香りを楽しむ青年は、時に怒鳴りあい、時に皮肉をぶつけ合う二人の声をB・G・Mに、いつしか睡魔に誘われていた。

 デカイ図体で、ガキの喧嘩を過激に展開していた二人は、世にも珍しい八戒の居眠りに気付き、どちらからとも無く口を噤む。
「余程疲れていたんだろう。」
 ぬるくなってしまったコーヒーを口にしながら、声を顰めて三蔵が言うと、
「ばか、ちげぇだろ。」
 瞳に慈しみの光をのぼせ、悟浄が答えた。
「安心してんだよ。」
「・・・・・・フン。」

 窓越しに、月の光が八戒を照らしている。
 二人の友人が、それぞれの想いで彼を見詰める中、
 風に煽られ、はらはらと散る桜の花弁が、窓の外で月光に映えてちらりと光を帯びた。




 END《CAT'S EYE》





 アクションシーン、初書きです。 活劇は、難しいですねえ。
 迫力もテンポも無いシーンになってしまった。 読むのは、大好きなんですけど。

 ところで、三蔵が出ると話が軽くなるのは何故だろうかと自問していたのですが、
 そうではなく、悟浄と三蔵が揃うと軽くなるのだと自覚しました。
 好きみたいです、私。 ドツキ漫才。 ・・・・・それだけの事なんですけど。



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