『経過報告』2004.11.15

 
            ――  経過報告  ――
  Development Report


《 沙悟浄 聞書き 》

 ナニ? あらたまっちゃって?
 珍シイんじゃね? 三蔵が俺に話あるなんてさ。

 ・・・最近? 調子イイよー。
 体が軽いっつーか。 イヤ、特にイイ事とかあったワケじゃねぇけど。
 あ、でも、こないだの“祝! 八戒一周年記念パーティー”は、楽しかったよな!
 ・・・ンだよ、てめぇも楽しんでたじゃねーかよ!

 えっ? 俺じゃなくて、八戒?
 ま、そりゃ、そーだよな。
 ・・・ちょっと待って、・・・えーと。
 うーん。

 あ、ナンカ最近、友達とか出来たみたいよ?
 詳しくは知らねぇけど、本屋で知り合ったとかって言ってた。
 一回、チラッとツラ見ただけだけど、ナンカふつーの奴って感じ。 真面目そうでさ。
 やっぱ、八戒って、ああいうのと気が合うんだよな、きっと。
 でも、そのオトモダチ君は知らねぇと思うぜ? 八戒の怖さ(笑)。

 ・・・うん、ヤツはヤツで、生活楽しんじゃってるカンジ。
 八百屋のオバチャンとかも仲、良いし。

 そーなんだよ! 結構、商店街じゃ、オバチャンのアイドルしてンの、あいつ。(失笑)(注 尋問者、同調す)

 マジ、なにげに笑えるから。
 一緒に買い物とか行っても、ずうっとオバチャン達と喋ってるしね。
 俺なんざ、『八戒ちゃんのオトモダチ』な〜んて呼ばれちゃうんだぜぇ? 笑えるっしょ?

 あと・・・ね、・・・・う〜ん、そおねぇ・・・・夜、うなされる事も無くなってきてるし。

 うん、一応、雨の日とか、特にどしゃ降りの日とかは気をつけてるけど、全然OK。
 ヤバイ時って、分かるから。 目の色とか、笑顔のカンジとかで。
 ・・・・声にはそういうの、出さねーから、あいつ。
 分っかりにくいんだよねー。 たぶん、意識して分かりにくくしてるんだと思うぜ?
 ヘンなトコでプライド高いから、八戒って。
 ンでも俺、だいぶ慣れたから。 結構わかるよ?
 ・・・ま、少なくとも俺から見て、かなり大丈夫なカンジ。

 ・・・・って、おい、信用しろよ!

 他に?
 うーん。
 ・・・あ、ホラ最近、バイト料、貰って来んだろ?
 ここのバイトもあるし、俺も仲立ちした事あるし。
 仲良しの八百屋のオバチャンにもバイト紹介して貰ったりして、ナンカ、色々やってんだよね。
 収穫の手伝いに行ったり、代筆頼まれて手紙書いたり。
 あと、花屋にも良く呼ばれて行ってるし。
 そうそう、こないだ俺、起きたら、食卓にどか〜んと花、あってさぁ!
 ・・・んにゃ、軽〜く昼は過ぎてたけど。
 ナンカ、花瓶も古いのを貰って来たとか言ってた。
 けど、びびるぜぇ、家に花束、飾ってあんのって。 自分ちじゃねぇと思ったモン、一瞬。

 ・・・んだから急かすなって! 短気なんだから、サンゾー様は! 
 それで、バイトとかで金、入る様になったら、『生活費は折半にしましょうね』とか言ってサ。
 もう勝手にやってるぜぇ。 俺もオマカセしちゃってるし。 たんす貯金とか、してるみてぇだし。

 うん、そう!
 まぁ、聞けよ!
 こないだ洗濯物しまってやるって言ったら慌ててさあ!
 『良いですから、珍しいことしないで下さい!』
 とか言って、俺をたんすに近寄らせねぇの!
 ぜってー怪しいって!!(笑)(注 尋問者、同調す)

 ・・・だろ? ありえねーだろ?

 (爆笑)ウマイ! 三蔵、それ、サイコー!

 その上、家計簿だってつけてんだぜ! トイレットペーパーが安いとか言って、遠くまで買い物行ったりするし!(爆笑)

 だよな、オバチャンと仲良くし過ぎだって!(爆笑)(注 これにも尋問者、同調す)

 ひ〜〜、腹痛てぇ・・・。
 時々、滅茶苦茶 笑えるよなぁ、八戒って。

 ・・・あ、知ってる? 今あいつの部屋、図書館みたいになってんの。
 すげーよ、本、増えちゃって。 何の本かなんて知らねーけど。

 いや、貰った本もあるみたいよ? ゼ〜ンブ買ってたら、かなりの金額だよね。
 そん位の量、あるぜぇ。 


 ・・・え?
 そーゆーコト聞くワケ?
 や〜らし〜なぁ、三ちゃん・・・・・って、だぁから止めろよ! すぐヒトに銃向けんの!!

 ・・・ったく、短気にもホドってモンがあんだろーがよ!

 イヤ、でもマジな話、最近あんまりシテねぇの。 前みたいには。
 醒めたとかじゃねぇよ。
 しなくても、大丈夫になってきたっつーか、ソレだけじゃねぇだろっつーか。
 ・・・あいつがソコに居るだけで充分っつーか。
 ―――って、アレ? 俺、ナンカ恥ずかしーコト言っちゃった?
 八戒に言うなよ!
 さらに勝てなくなるから!

 いや、マジであいつ、なんつーの?
 ちょっと憎たらし〜位、余裕の表情なのよ、最近。
 俺なんざ、ヤツの掌の上よ?
 ナンカ、イイ様に操られてる気ィするし。

 ・・・ちょっと待て。 そう考えたら、気になって来た。
 俺、やばくね?

 ・・・って、三蔵! そう云う言い方はねぇだろ! ちったぁ、相談に乗れよ!
 てめぇ、そう云うのが商売なんじゃねぇのかよ!?






《 猪八戒 聞書き 》

 何ですか三蔵、お話って。 珍しいですよね、こういう感じで話すのって。
 あ、もしかして、事情聴取ってやつですか? 経過報告とかするんでしょう?

 ・・・そうですよね。 もう、一年、経ったんですよね。
 三蔵にも、色々ご迷惑を掛けてますよね。 スミマセン。

 あはは、三蔵、そんな言い方、他の人にしたら、誤解されちゃいますよ?

 最近、ですか。
 そうですね。 このところ、何故か悟浄が上機嫌です。

 ――だから、それは知りませんよ。 僕が知りたい位です。 けど。
 彼が笑ってると、僕も嬉しいので。

 あはは、違いますよ。
 ノロケてる訳じゃ・・・・・。
 ―――と、言うか。
 一時期、彼に、一方的な負担を掛けてるんじゃ無いか、と、悩んでた事がありまして。

 ・・・ええ、解ってます。 今では。
 僕、彼には結構、必要なヒトみたいなんで。
 そこら辺が解ってきてから、ちょっと、僕にも余裕が出来たって云うか。

 いえ、結局、僕が負けず嫌いなんですよ。
 ほら、三蔵にもバイトさせて貰ったりしてるじゃないですか。 他にもちょこちょこバイトしてるんですよね、僕。
 それで、まあ、生活費だけは、きっちり折半でやれる様にはなりましたので。
 僕も、男ですから。
 養われてる、とか、護られてる、とか。
 悔しいじゃないですか。

 勿論、全収入なら、まだまだ悟浄の方が上なんでしょうけど。
 ・・・いや、正確な収入なんて知りません。 多分、本人も知らないと思いますよ?

 あはは、確かにそうですけど。 でも、結構稼ぎますよ? 彼。
 あんまり欲が無いのが良いんじゃないですかね? コンスタントに勝って来ますから。


 え? ええ、確かにカードで悟浄に負けたことは無いですけど。
 でも、僕には出来ませんよ、賭博を生業にするなんて。 向いてません。

 いいえ、無理です。 僕、きっと、加減知らないタイプですから。
 いちいち身ぐるみ剥いでたら、商売としては成り立たないでしょう?(笑)


 ―――ああ、悟浄から聞きました?
 友達って言うか、好きな本が近くて、話が合うんですよ。 学生さんです。
 良く家でお茶など飲みながらお話ししてます。 本も借りますし。
 そう云えばこの間、言われちゃいました。
 『八戒って、同居人の話、良くするよね』
 って。
 意識して無かったんですけど、そうみたいです。
 でも、それって僕自身に語るべきものが無いからだと思うんですけど、どう思います?

 そうそう、別の日なんですけど、学生さんが居る時に悟浄が帰ってきて、・・・昼過ぎてましたね、確か。
 で、碌に挨拶もしないで自分の部屋に入っちゃったんですよ。 多分、眠かっただけだと思いますけどね。
 ところが彼、悟浄を一目見て慌てて帰っちゃって。
 後で聞いたら、僕の話に出てくる悟浄で想像してたら、全然違うねって言ってました。
 なんか、怖いお兄さんにしか見えなかったみたいで。(笑)
 見た目で損してますよねえ。 本当は子供みたいな人なのに。(笑)

 まあ、でも、こういう風にしてられるのは、悟浄だからでしょうね。
 ホラ、僕ってあんまり自分を出さないじゃないですか。 でも悟浄はこじ開けて入って来るって云うか。
 わがままですから、彼。 よく解らない状況に置かれるのが苦手みたいで。(笑)
 ただ、そんな風に入って来るのは僕だからなんだって気付いて。
 それでラクになりましたよね。 かなり。


 ・・・ええ、確かにそう感じる部分もあります。
 花喃以外に、こんな密な関係が成り立った人って居ませんから。
 失うのが怖いって云うのは、ありますよね。

 ・・・・そうなったら、自分がどうなってしまうかって云う怖さもありますしね。
 逆上して、前後の見境が無くなってしまった時に、またやっちゃうかも、みたいな。

 あはは、もしかして、びびってます?

 冗談はともかく。
 ・・・僕、結構覚えてるんですよ、あの時の事も。
 自分がやってる事、どこかで冷静に見てたみたいで。
 前後の見境無いとか言ってる割には、冷静に見てる自分が居るって、我ながらちょっと、どうかな? なんて、思ったりもしますし。
 あんまり自分を信用してないのかも知れません。

 ええ、そう思います。 やっぱり考えすぎですよね? 
 実際、考えても仕方ない事ですしね。
 そんな事より、もっと強くならなきゃ、と思っては、いるんですけど。

 ・・・でもホラ、悟浄って、殺しても死なないカンジ、しません?


 あはは、ね?・・・そう思うでしょう?
 ・・・だから、大丈夫って、思ってます。
 今度は、死なせない、とも、思ってます。


 え?
 ・・・ああ、そっち方向も聞くんですね?
 あんまり、得意じゃないのに、三蔵もご苦労サマですねえ。

 いいえぇ、深い意味はありませんよ。
 ええ、ホントに。(笑)

 ・・・そうですねえ。

 まあ、これからも、女性を抱いたりなんて事は、出来ないでしょうね。 そんな欲もありませんし。


 ・・・・・・・・・・・・・・。
 ええっと・・・・・・・。

 ・・・・・・・・・・・・・・(溜め息)。

 ・・・どうせバレてるから言っちゃいますけど、 ―――でも“抱かれる”のは、ありかな、と。(失笑)
 ・・・スミマセン、自分でも詭弁だと思いますけど。

 ・・・・・・・。
 でも・・・それも含めての僕らですから。

 あはは、・・・でも、ソレも最近は落ち着いて来てますよ?
 ・・・どうせ、バレバレなんでしょう? 三蔵?(笑)



         ――――――――――――――――――――――――――――

「なあ、なあ、三蔵! 悟浄と八戒が来てたろ? もう帰っちゃったのか?」
 執務室のドアを盛大な物音を立てて開けながら、悟空が飛び込んできた。
「喧しいわ! ドアくらい静かに開け閉め出来んのか!?」
「・・・あ・・・ゴメン。」
「・・・・・まだ、そこらに居るだろう。 探しにでも何でも、勝手に行ったら良いだろうが。」
「んじゃ、今日あっちに泊まって良い!? なあ、三蔵も行こうよ!!」
「俺はまだ仕事が残ってる。 てめぇ一人で行って来い。 今日中に終わらんかも知れんし、泊まるかどうか解らんが、仕事が片付いたら顔出すと伝えとけ。」
「うん、わかった!! じゃ、先行って待ってるな!!」

 嬉々として走り去る悟空を見送ると、書きかけの書類に目を落とす。
「ふん、どいつもこいつも、好き勝手言いやがって。 これをどうまとめろってんだ、全く!」
 思わず真面目に読んで、腹が立って来た三蔵は、大袈裟に溜め息を付いた。
 基本的に、聞書きは口述筆記であって、内容を書き改める事は出来ない。
 だが、少し考えて致し方なし、と、“ヤバイ部分”を当たり障り無い表現に書き改める事に決める。
 更に、その作業に相当な時間をとられそうな事に、理不尽な怒りを覚えた。
 書き改めた形跡を残さないために、一から書き出す必要があるのが一つ。 筆跡が違うので、書記を勤めた者に書き直させねばならない。
 その隠ぺい工作の為に、『確かにその時間内で聞書きが行われた』事を証する、第三者による印や署名などにも、手を加えなければならないのが一つ。
 ため息をつきながら、時間がないとばかりに、三蔵は早速行動に移った。
 まず、書記を務めた持僧を呼び出して拘束する。
 極秘だと言い渡され青ざめる持僧を横に、無難で、しかも元の印象をさほど変えない文面をひねり出して口述筆記させた。
 それが済むと、印を押し、署名を施した第三者(高僧の一人である)を脅して、さらに交換条件を出し、きつく口止めして再び押印署名をさせる。(結果的に、悟浄の聞書きに関しては、ほぼ全面的な改稿となった。)

 そうやって、なんとか体裁を整え終えたのは、もう夜半を過ぎた頃。
 出来上がった書類を手に、三蔵は、また暫し考え込んだ。
 ふと思いついて“特記”の項に一文を書き足し、読み返して一人頷く。
 やっと、納得した様子で押印すると、三仏神へ提出するために席を立つのであった。





      ―――――――――――――――――――――――――――――――――――

                    経過報告


                        北方天帝使第三十一代東亜玄奘三蔵拝

                                       印
                                      

                     記

      過日、猪悟能として大量殺戮を犯し、三年を超えない期間、保護監察処分に
      処されし猪八戒(以下、甲と称す)の、一年経過時点での現状報告。



     1.身体面

      ・急激な妖怪化に因り、不安定になっていた各所は概ね安定してきており、
       眩暈、倦怠感、不眠等の症状も改善されている。

         別紙参照 医師による診断書



     2.精神面

      ・同居人・沙悟浄(以下、乙と称す)との擬似家族的な生活。
      ・経済面での一応の安定。
      ・新たな友人等の出現。
        以上の理由に因り、精神面での安定は近日著しい。知識欲、所有欲など、
       将来に繋がる意欲も出て来ており、当初見られた自傷行為(精神的な物も
       含む)は、現時点で見られない。
        月次提出されるレポートに由る自己判断の冷静さも其れを裏付ける物と
       する。

         別紙参照 甲の聞書き
              乙の聞書き
              甲による近況報告レポート(12ヶ月分)



     3.突発的破壊衝動の懸念

      ・元来の性格は温和であり、自らの不利益に帰する行為をなす類例とは思わ
       れない。 因って、基本的に懸念は少ないと判断する。
      ・擬似家族状態にある乙の生命等が危機に晒された場合、過日と同様の事態
       が危惧される。
        しかし、この乙の生命力、著しく強く、また、ほぼ常に甲と同一行動を
       とっている為、万が一の危機に際し、甲当人に因る救命行動が予想される
       点も含めて考慮し、当面懸念は甚だ少ないと判断する。



                     特記
      
      以上の判断を下ししも、懸念が皆無とは考えられず、以下の責務は持続する
      必要あり。


        壱・医師による月一回の検診。
        壱・近況報告レポートの月次提出。
        壱・拙僧による、最低月二回の面談。

                                      以上





― END ― 《経過報告 Devlopment Report》








 ちょっと、変わった感じで書いてみましたが、いかがでしょう?
 時期としては、『お買い物』よりひと月ほど早い頃、でしょうか。
 一年経って、だいぶ安定してきた感じの状況をまとめてみたんですけど。
 これからは、ちょっとオトナな二人を書きたいと思っています。

 ちなみに、悟浄の聞書きの時、三蔵は結構ヒドイ事言ってます。(最初は全部書いたので)




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