『補色 The Red Side 〜Sensibility〜 』2004.08.26





  CAUTION!    この作品には、成人向け描写が含まれています。

 

 

 粘り付く様な闇の混沌に囚われて、僕は、僕の罪の深さを思い知る。

 全身を覆う不快な違和感と痛みは、いつしか僕に絶叫を強いていた。

 ・・・・・・・・誰か、助けて・・・・・・・・!

 心の叫びを聞くものは無い。 圧倒的な孤独 打ちのめされて、僕は息もたえだえになっていた。




 補色 

The Red Side

Sensibility

 

「・・・・・・帰って来いよ!」

―――誰の、・・・・・声・・・・・・?

 

 

 

柔らかい、暖かいものに包まれている。 僕はまだ赤ん坊だ。 この人は・・・・・お母さん?

 

 

『可哀相な子。 愛さなければ愛されないのに。』

シスターは、優しく抱きしめてくれる。 何を言われても耳に入らなかったけれど。

・・・・シスターの抱擁は、柔らかで暖かかった。

 

 

『悟能・・・・・・』

あれ? 花喃? 幸せそうに笑ってる。 

―――僕たちは抱き合う。

 ―――君は僕の片割れで、僕は君の半身で。

 ―――だから僕らは自分自身と愛し合っていたんだ。

 でも、幸せだった。 何の不安も無かった。 

 

 

 

 

―――声が、聞こえる。

 

『前の名前より似合ってるぞ!』

『八戒、覚えたかんな! もう変えんなよ!』

 

―――悟空?

 

 

『フン、馬鹿ばっかりだ。』

 

―――三蔵

 

 

『自分の事? って、キライでもさ、信用できなくても、俺が気に入ってるヤツが、俺の事気に入ってるって言うんだったら。 アイツに気に入られてるなんて、俺って結構やるじゃん、なんてさ、自分の事見直したりして。・・・・・そんなモンだぜ。』

 

・・・・・・・・悟浄・・・・・・

 

「帰って来い! 頼むから!!」

 悟浄・・・・・・!

 


 Tender Impulse 

 

―――気付くと、ベッドに寝ていた。

 乾いたタオルに包まれて。

 髪を拭いている悟浄が見えた。

 僕に気付いて、ゆっくり近付いて来る。 ベッドに腰を掛け、僕の髪を拭きながら

「しっかりしろよ!」

 と、言った。

 悲しそうな、辛そうな目をしてる。 

 何も言わずに、悟浄が僕をタオルごと抱き締めた。

僕の体には、まだ、あの変化の時の感覚が残っていて、それに気付いた僕は僅かに震える。

(ああ、そうか。 さっきまでこうして、悟浄が抱き締めていてくれたんだ。)

夢の中で抱き締められた感覚と同じだ。 優しい抱擁。

・・・と、悟浄の唇が僕の唇に触れる。

 さっきとは違う。 優しい、口付け。 ホッとして、僕は小さく息を吐いた。

 

唇を離し、悟浄の口元が僕の目をかすめて耳に辿り着くと、熱い吐息をかける。

さざなみのような快い感覚が僕を包んだ。

首筋から鎖骨へ、彼の舌がゆっくりと移動する。冷え切った僕の体を温める様に、舌の動きは優しく、執拗だ。

知らず、小さな意味の無い声が出ていた。

―――え・・・・・・・・・? どういう事? 何が起こってる?

悟浄の動きが激しくなった。 唇と舌が、僕の体の上を彷徨う。 時に強い感覚が背筋に走り、全身に、ザッと鳥肌が立った。

―――これ・・・・・・快感ってもの?

悟浄は一言も口をきかない。 僕も黙っている。 ・・・・・・というか、何も言えない。

口を開くとヘンな声が出てしまいそうで、口を噤んでいるしかない。

 心臓の音が自分で聞こえるくらい大きくなってる。

いつの間にか、息が荒くなっていた。 僕も・・・・・・悟浄も。

「はぁっ・・・・・・・・・・」

彼の手がタオルを分けて直接肌に触れた。 熱い手。

既に唇と舌で制覇されていた上半身から、手が下へと移動してゆく。 下半身を覆っていたタオルが取り除かれた。

もうすっかり勃っていた僕のものは、押さえが無くなった事で跳ねる様に立ち上がり、先端が悟浄の腹に触れた。

それだけで腰が痺れるような快感が走る。

「あっ・・・・・・」

悟浄が唇にキスしながら僕のものに触れた。 扱きながら唇は耳たぶへと動く。 荒い吐息が耳をくすぐる。

テンポ良く動く彼の手の中で、僕のものは更に体積を増した。

「んっ・・・・・・はぁ・・・・・・・あ・・・・!」

僕はあっけなく果ててしまう。

僕が吐き出した白濁した粘液を、彼の手はなでるように僕の腹の傷に擦り付けた。

彼の指が今度は太腿から後ろの双丘へと移動する。 迷うように彷徨う指が、突如、後ろの中心に滑り込んだ。 粟立つような快感が全身を包む。

「はぁ・・・・・・・・・ぁ・・・・・・・」

差し込まれた指は僕の中で蠢き、その度に僕は抑えることも叶わず、意味の無い声を出してしまっていた。

 体の芯から熱が生まれ、僕の体はいつの間にか、汗ばむほどに熱くなっている。

やがて中心から指を抜かれ、体がうつ伏せに返される。

開放されたことで、大きく息を吐いて弛緩した僕の背を、悟浄の唇と舌が這い回った。

背筋に沿って彼の舌が滑り落ちる。 あまりにも強い刺激に声を上げ、唇から逃れようと体を捩るが、筋肉質の褐色の腕から逃れる術は無かった。

 さっき解放された中心部に、再び指が差し込まれる。 より強い感覚が、僕を翻弄する。 歯を食いしばって声を出すまいと耐えるが、洩れてしまうものは抑え難くなっている。 唐突に指はそこから抜き出され、僕が荒く呼吸を整えていると、そこにもっと熱いものがあてがわれた。

「ああっっ・・・・・・・・・っツっ・・・!」

例えようも無い熱い感覚が、鈍い痛みと共に全身を貫き、僕は、自分でもビックリするくらい大きな声をあげていた。

「八戒・・・・・」

悟浄が動く度、快感の波が押し寄せる。 優しさの籠められた声で、囁く様に悟浄は僕の名を呼んだ。 何回も、何回も。

「八戒 ・ 八戒 ・ 八戒 ・ 八戒・・・・・・・・」

 低い、少しハスキーな、甘い声。

いつしか鈍い痛みは無くなっている。 ――もう、僕はひっきりなしに声を出していた。・・・・・・・・・抑える術が無い。

 リズミカルな動きに合わせる様に、僕の声が部屋に響く。 やがて、僕の名を連呼する彼の声に切なさがにじみ始めた。 僕の中で更に硬度と体積を増したものが、より激しく僕を苛む。

何も聞こえない

何も考えられない

 ただ、熱と優しさが、僕を包み込む。

 

 

どれくらいの時が経ったのか。 

彼が僕の中から離れた時、うつ伏せになったまま、髪を優しく梳く指を感じながら僕は気付いた。

―――あの、おぞましい感覚が――変化の時の――何処にも残ってない・・・・・・

熾き火の様にくすぶる快感と、心地よい疲労感だけが体の隅々まで漂っている。

―――指一本動かせない。

そのまま僕は眠ってしまった。何ヶ月ぶりかの安らかな眠り。

 

 Consciousness 



目覚めると、視線を感じた。 悟浄だ。

手が、僕の頬に触れる。

 視線を彼に合わせる。 手が離れた。

ぼんやりと見えた赤い塊が、焦点がはっきりしてくると悟浄になった。

―――なんて顔、してるんですか・・・・・・悪戯を咎められた子供みたい。

僕は目を伏せ、かすかに笑う。 笑っちゃいけないんでしょうけど。

「・・・・・・・はっかい?」

「あぁ、・・・・・・・おはようございます。」

僕はまた、悟浄を見た。赤い瞳に戸惑いの色が強い。

「・・・・・・あの―――さ。」

「はい?」

―――らしくない・・・そんな、遠慮がちな声。

「・・・・・・その、・・・・・・・・・ゆうべの事・・・・・・な、」

「はい。」

「――――――いや、あの・・・・・・覚えてる?」

「・・・・・・うーん。いや、結構、記憶飛んじゃってますねえ・・・・・・。」

嘘。全部覚えてる。

「・・・・・・・・・あ、・・・・・・・・そう・・・・・・・・・」

悟浄があんまり可愛いから、ちょっと苛めたくなってしまった。

「でも、あらましは覚えてますよ。気が付いたらキスされてて、頭まっ白になっちゃった事とか。」

 これも嘘。 貴方の優しい気持ち、伝わりました。

「僕の名前をずっと何回も呼んでくれた事とか。 野郎をベッドに運ぶのは一度きりって言ってたのに運んでくれましたよね? それから・・・」

わあー!もういい!言わなくていい!

悟浄、肩で息してます。

「・・・・・・それで?」

「・・・で・・・って!?」

うろたえぶりが可愛い・・・

「悟浄が聞いたんですよ? 覚えてるかって? ・・・だから、答えたじゃないですか?」

「―――あぁ、そう、―――そう、ね。」

髪を掻き揚げながら、目だけで天井を向いて、悟浄は言った。

 ( 所謂ぐったり、ですね。)

僕は我慢できなくて、笑ってしまった。

「?」

( 混乱してる。混乱してる。)

「・・・・・・ありがとう」

「へ?」

「こんなにぐっすりと眠れたのは本当に久しぶりです。」

―――本当に、心から、ありがとう。

 悟浄は体をベッドに投げ出して、

「・・・・・・結構、イイ性格してんのね。 八戒って。」

と、言った。 悟浄、・・・・・・・・ちょっとひきつり気味です。

「・・・・・それ、褒めてくれてるんですよね?」

「うん、イイよ、それで、もお」

 

 心から微笑みながら、僕は、・・・・・・・・気付いてしまった。

――――――きっと、僕は悟浄が好きなんだ。 花喃とは違う意味で。

 

 彼女は僕の半身だった。 僕たちはお互いの体でマスターベーションしてたみたいな物。

他人との触れ合いを、二人とも怖がっていた。

 

 だけど、悟浄は違う。

容姿も性格も生活感覚も、僕とは正反対に近い位、違う。

共に歩いて行きたい、僕とは別の人格。 護るでも護られるでも無く、お互いを認め合える。

 そんな悟浄だから、好きなんだ。 きっと、だいぶ前から。

 ・・・・・敢えて、気付かないフリをしていた。 だって、僕にはそんな資格が無い。

 ―――それに。

昨夜の事は、悟浄が優しいから、僕を助けてくれようとしただけだと言う事。

 それ位、僕にも解ってる。 だから、そんなに困らなくて良いから。

貴方が僕を好きじゃなくても、そこに居てくれるだけで良いんだ。

 だから、この事が枷になって、離れなければならなくなるのは避けたい。

 

―――え? 悟浄が近づいてくる。 ―――綺麗な赤い瞳。

 ・・・・・息がかかるほど近づいた。

「悟浄?」

「俺で良けりゃさ、いつでも睡眠注射、打っちゃうから。 要る時、言って。」

 優しい、口付け。

胸が、苦しいほど高鳴る。

 

―――悟浄・・・・・。 今まで通りで居てほしい。 この居場所を失いたくないし、貴方を見ていられなくなるのは少し、嫌だ。

 

 -Final Chapter-

「・・・・・悟浄。」

「んっ!?」

「別に、大丈夫ですから。 僕は。」

「は?」

 少し笑い声で、僕は続ける。

「解ってますよ? ハズミみたいな物だったんでしょう? 悟浄が綺麗なお姉さんを好きなの、知ってますし。 そんな困らなくて良いですよ。 僕も忘れますし、無かった事って云うのも変ですけど、今まで通りに・・・・・・」

「ちょっと待った!」

 悟浄の骨ばった手が僕の目の前を覆った。

「はい?」

「忘れるって、昨夜(ゆうべ)の事? なんで?」

綺麗な赤い瞳が、微かに笑みを含んで僕を見つめる。

「――――なんでって・・・・・・僕なんかと・・・・・」

「ナニ、俺、忘れないと、ダメ?」

「・・・・・だって、迷惑でしょう?」

「うん! よぉし、わかった!」

 悟浄は僕の首に腕を回し、ベッドの上に横たわった。 僕は羽交い絞めでもされてる恰好。

「まずひとつ、ハッキリさせようぜ! もう、出てく、なんて言わない?」

「あ・・・・・はい。」

「絶対? ナニがあっても、言わない?」

 今度は気持ちを込めて、はっきりと言った。

「はい。」

「オーケー、んじゃ次。 ・・・・・・・・俺の事、キライ?」

「嫌いだなんて・・・・・・!」

「んじゃ、好き?」

「・・・・・・・・!?」

思わずすぐ傍にある、悟浄の顔を見た。 赤い瞳の中に、真摯な思いが映っていた。

「・・・・・・・・ナンカ、よくワカンネーけどさ。」

「・・・・・・・・・。」

僕の、鼓動が大きい。

「ナンカさ、・・・・・俺、さ。」

「・・・・・・・・・。」

心臓の音、悟浄に、聞かれてしまう。

「俺、お前に惚れてるみたい。」

「! 冗談・・・・・・・!」

「じゃ、ねぇよ。」

悟浄は、首に回していた腕を背に回し、きつく僕を抱きしめた。

「俺、あんなにマジなエッチ、初めてだったもん。」

 ―――悟浄、顔が見えません。

「ホントに好きな奴とスルのが、一番イイって言ってた奴、居たけど。 あれ、ホントな。」

 ―――悟浄の心臓の音が聞こえる。

「すっげヨかった。 八戒。」

――――嘘だ――――

悟浄が、耳元で囁く様に言う。

「なんなら、これからまたスル? お前、自覚無いだろーけど、超ヤバイから。俺、今すぐデキルぜ?」

「馬鹿な事を・・・・・・!」

 唐突に、体を投げ出され、悟浄の体温が遠ざかる。 僕はベッドの上で身を起こした。

「バカって、なんだよ! 俺、生まれて初めて告ってんのに! すんげぇ緊張してんのに!」

 背を向けたまま、悟浄は泣いてる様な苛立ちの声を出した。

「お前、ナンにも言わねー気?」

「いや・・・・・・」

「お前がNGだってんなら、俺、諦めるし。 別に、出てかなくてイイから、安心して・・・・・・」

「そんな意味じゃ・・・・・・・!」

「ん?」

「諦めるとか・・・・言わないで下さい・・・・・・」

振り返って、赤い瞳が僕を見詰める。 どこか、不安げに。

「どーゆーこと?」

「僕も・・・・・・・・」

悟浄は目を伏せて、言葉を待つ。

「うん。」

「僕も多分・・・・・・・・」

多分、僕も真っ赤になってるんだろう。 悟浄と同じくらい。

「うん。」

「好き。」

 ギュウッと抱きしめられた。 悟浄、馬鹿力なのに・・・・・苦しいです。

「うん、いいよ多分で。・・・・・今は。」

 体を離すと、僕の手をとって、悟浄の胸に当てた。

「ホラ・・・・・・・・。すんげえ、ドキドキしてるっしょ?」

鼓動が手のひらに伝わる。

「俺、マジだから。」

「・・・・・・・・・・」

 

―――知ってますか? 悟浄。

赤と緑は“補色”なんですって。

正反対の色なのに、相性が良い。 補い合う色なんですよ。

そんな風に、僕と悟浄も全く違う人格だけど、惹かれてしまう。

お互いの欠けた部分を補い合う様に?

 

悟浄に包み込まれて、僕は救われる。

僕は、貴方に何かお返ししてる?

僕は・・・・・・・・・何を、してあげられるんだろう

 

 



END


 

 

 

―補足Complement


この繊細な魂が、僅か3〜4年後には、天下無敵の鉄面皮となっている事を予知できる者は、

この当時、一人として居なかった。

 

―――――――――――――――――――――――――

 

いやあー、思いの外、長くなってしまいました。

最後、オチ付ける必要があったのか?(自問) いや、習性で。

 

この当時、二人は19〜20歳の若造な訳で、そんな、若気の至り的な、

イタイ部分を書きたかったんですけど。

・・・・・・出来てない?

そーですよねー。 自覚してます。 スミマセン。

 

同じシチュエーションの悟浄バージョンも、書いちまいましたので、

(いや、悟浄があんまりメンコクて、つい。)

よければそれも読んでみてやって下さい。

 

どうも、八戒を書くと、カルーく悪魔、入るみたいです。

 
 




(プラウザを閉じてお戻り下さい)